新潟市から車で30分ほど、阿賀野川に面した横越町に「北方文化博物館」があります。これは、戦前に1,000町歩を超える農地を所有し、8,800坪の敷地に60人近い使用人を使っていた豪農「伊藤家」の屋敷を博物館として保存したもの。豪壮な建物と銀閣寺ゆかりの名庭師がつくった庭は、驚くほど立派です。
その敷地の一角にひっそりとたたずむのが「豪農の宿大呂菴」。伊藤家分家の使用していた旧宅を、「できるだけ足さない、できるだけ引かない」というコンセプトで改装した純和風の小さな宿です。
どちらかといえば簡素な造りの建物なのですが、什器や備品には、みごとな漆器や陶磁器がごくふつうに使われ、古美術とともに「さすがお金持ちの家」という感をいだかせます。手入れが行き届いた初冬の庭園では、斑入りの笹の緑や、ドウダンツツジの名残りの紅葉が目立つ中、雪つりされた冬支度の木々の姿が印象的でした。
くつろぎは、新しく作られたサンルームで。そして、郷土料理の名人が作ってくれる素朴な野菜料理の味が抜群でした。刺身と焼き魚だけは良いものを近くの料理屋から取り寄せ、それ以外の料理は雇っている料理人に作らせたものを良い器で頂く。昔のお金持ちの暮らしを思い起こさせるような食卓は、他ではなかなか経験できない貴重なものだと思います。 |
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