夕食はThe French Kitchen(フランス料理)。キャットウォークが広々とした空間の中央を貫き、せわしなく、いや機敏に動き回るシェフたちの舞台、見せるオープンキッチンはオールステンレス。見えないレールの上を、決してかすめることもなく縦横無尽に行き交うギャルソン達にも無駄がない。そして、ここは六本木。フレンチレストランでよく見かける熟年の男性に若い女性。着慣れないスーツが初々しいカップルに混じって場違いなほどラフな格好をしたイマドキのツーショット。大きなテーブルをぐるりと囲み、とても賑やかに歓談する中高年のグループ。50を少し超えたマダムが、少し赤らんだ頬と危うげな足取りで、全員のサラダの上に一生懸命、木製の大きなコショウの瓶を回し掛けている。突然その瓶の底を眺め、大きな声でギャルソンに「これちょっと壊れているわよー!」。血のにじむベリーレアの仔牛を飲み込んだ春絵が一言、「壊れてるのは、あなたよ」。でも、私は好きです。半球型のソファに包まれるように座る私たちはこのストーリーのない様々な寸劇を盗み見て、聞きかじる。そう、ここにいる全員共通していることがある。ワンサイズ大きいジャケットを羽織った彼は、結び目のきついネクタイを引っ張りながら白い歯がこぼれる。大丈夫ですかと思わず聞きたくなるくらい真っ赤になった熟年男性の手を、テーブルの下でしっかりと握り締めるか細い手。シェフとギャルソンを集めて10人以上に膨れ上がった先ほどのグループは一列に並び、笑顔で記念撮影。シャッターを押したマダムは、私も写りたいとカメラを若年の男性に押し付ける。浮いているなんてこれっぽっちも思っていない裏原系の彼は、はにかんだように下唇を噛み、履きつぶした彼女のコンバースが店のBGMにリズムを打っている。それぞれがそれぞれの幸せで溢れているこの空間にリターン指数は4。 >>つづく